手話通訳指針②手話通訳者の手話がろう者に通じにくい理由

手話通訳者の手話がろう者に通じにくい理由

その通訳者さんの話によると、依頼者のろう者の日本語力が低いがために、手話通訳が通じないということがしばしばあるそうです。

②分かりやすく伝わりやすい手話通訳をしてくださる方だったので、ろう者に手話通訳が通じないというのは、その方の手話通訳の技術の問題ではないということは明らかでした。

手話通訳が通じないという問題が生じたとき、まず、考えなければいけないのは次の2点でしょう。
A 手話通訳者の技術の問題
B 受け手(聴覚障害者)の読み取りの問題

③ そもそも手話通訳というのは、通訳者側の発信力と受け手の受信力の両方が釣り合うことで、初めて成り立つものなのです。
手話通訳者側の技量も大切だし、受け手の「伝わってきた内容を確実に受け止める力」も非常に大切なのです。

④ 手話通訳をするうえで大事なのは、相手の受信力を見極めることではないでしょうか。

⑤ ろう者が相手ならば、日本手話が望ましいという人もいるかもしれません。
しかし、日本手話では伝えきれない情報、イメージの言葉が日本語にはあるのです。
その部分を上手に伝えられるかどうかは、手話通訳者の力量次第です。

⑥ 一方で、受け手である聴覚障害者側は、通訳者側からの情報をキャッチする力が求められる。

手話通訳者がどれだけ内容を分かりやすく正確に伝えたとしても、受け手がそれをそのまま確かに受け取るためには、それなりに日本語の力、あるいは示された情報から推測し、理解し、飲み込むための力を持っていなければ、通訳は成り立ちません。

⑧ いくら手話通訳が上手な方であっても、日本語ベースで思考するので、ろう者に伝わる手話通訳が完璧に出来るとは限らない。

⑨ だから、手話通訳が伝わらないのは、何でも手話通訳の技量のせいなのではなく、受け手側の受信力の問題でもあるということは自覚した方が良いのかもしれません。

⑩ だからといって、この問題を全て受け手であるろう者が悪いというわけにもいかないのです。

⑪ つまり、手話通訳が通じないという問題は、発信側の手話通訳者と、受信側の聴覚障害者がともに考えていかなければならない問題なのです。
一方が一方を批判するという形では、何も進歩はないでしょう。

⑫ 聴覚障害者は、自身が困らないためにも、手話通訳者の技量を高めるための機会を保障したり、学習会に協力したり、あるいは指導したりする
実際に取り組んでいるところは多いと思います。

⑬ 手話通訳者は聴覚障害者の苦手な部分(特に日本語)をカバーすればいいのです。
ある程度、傾向をつかんでおけば、あとはその人のレベルに合わせて通訳の仕方を考えればよい。
その傾向をつかむためには、実際に聴覚障害のある人と関わっていくことが必要でしょう。
双方がお互いのために学びあうという姿勢が大事だと思います。

「聞こえない子どもの言語獲得」という根本的な問題に突き当たるのではないでしょうか。
というのも、そもそも手話通訳というのは、相手が日本語を使って話しているという前提があるからです。
相手の日本語を聞き取ることができないから、手話通訳が必要になるのです。

⑮ そして、その相手の日本語を理解するためには、自身も日本語をある程度理解しておくことが求められます。
言語獲得の問題というのはただ、言葉を覚えれば解決するというものではないのです。

⑯ 実際、社会人になった聴覚障害者と会話しても、会話が噛み合ない、あるいは会話の内容のレベルが低いということがあります。
そんな聴覚障害者が手話を覚え、手話通訳を依頼することがあったとしても、ベースとなる日本語力が乏しいと、せっかく依頼した手話通訳が通じないということが起こりえます。

⑰ 昔から言われているように、聴覚障害児の言語獲得の問題は永遠の課題なのかもしれません。
この課題をクリアできない限り、手話通訳が通じないという問題もこの先残り続けるでしょう。

「手話通訳者が上手くなるべきだ」「聴覚障害者が日本語を身につけるべきだ」という一方的な主張が通る時代ではないのです。
お互いに歩み寄って、お互いに高めあうこと。
それがこれからの基本的姿勢であると思います。