手話奉仕員・通訳者派遣事業に対する指針

経過

昭和46年に手話講習会が開催され、昭和52年には聴覚障害者が病院やPTA等に行く時に手話奉仕員が同行する「手話奉仕員派遣事業」が大分県の事業として開始されました。    

現状

県下の市町村においても手話講習会や手話奉仕派遣事業が開始されるようになり、聴覚障害者の社会参加のきっかけができてきたといえます。
現在では県下18の全市町村で派遣事業が実施されるようになりました。
しかし、「手話奉仕員」の養成のみでは聴覚障害者や社会からの通訳要求に十分に対応できないとの認識に基づき平成11年度から「手話通訳者養成事業」が開始されるようになり、今後は「手話奉仕員」と「手話通訳者」の役割が明確になってくると思われます。 

今後

手話奉仕員派遣事業は聴覚障害者の社会参加に一定の役割を果たしてきており評価はできますが、手話通訳派遣を通じて把握した聴覚障害者問題の改善について組織的な取り組みは十分に行なわれてきておりません。
手話通訳の専門性が追及され、通訳要求も多様化してきている今日、県聴覚障害者協会として、手話奉仕・通訳者の派遣事業について下記の方針で取り組んでいきたいと考えています。

1.聴覚障害者問題の一元化

聴覚障害者を取り巻く諸問題を把握して、支援のための事業に取り組んでいくためには県聴覚障害者協会に派遣事業を集中させていき、組織的に対応していかねばならないと考えています。

下記の①~④の理由で、県聴覚障害者協会が派遣業務を担うことが適切であると考えます。

①手話奉仕員派遣事業は聴覚障害者の医療、家庭内の問題、職業、財産等個人のプライバシーに関わりのある業務が多く含まれるため、その派遣調整や活動報告書等の管理は手話サークル等が行なうべきではないと考えます。
管理は公的な機関や法人が行うべきであり、県や市からの派遣事業の受託実績のある県聴覚障害者協会が適当であると考えます。

②手話通訳を通じて聴覚障害者の実態を把握しても行政に具体的な政策提言や関係機関への様々なアプローチもできにくいと考えます。県聴覚障害者協会であれば教育、福祉、労働等さまざまな立場からの問題分析が可能であり、行政への施策提言や法人の自主事業へとつなげていき、聴覚障害者福祉向上につながっていく組織的な対応が可能な団体が派遣事業は行なうことが適当と考えます。

③聴覚障害者の財産、生命等の諸権利保障も担うことのある登録手話通訳者に対して責任ある研修が保障されなければならないと考えます。そういう意味で指導技術を持っている県聴覚障害者協会が適当と考えます。

④専門派遣コーディネーターによる調整
聴覚障害者のコミュニケーション力、社会生活能力、通訳依頼内容に応じて適当な手話通訳者を派遣していくには、幅広い知識と聴覚障害者問題に精通している者が派遣調整を行なうべきであり、年間3000件近くの派遣調整を行なっている専門派遣コーディネーターを設置している県聴覚障害者協会が適当と考えます。

2.手話通訳事業の今後

聴覚障害者に対する手話通訳は「ボランティアでの対応で十分」という考えから、手話通訳は専門性を持った福祉サービスという認識に変わってきています。それは平成元年度からの「手話通訳士試験」の開始や平成13年度からの「登録手話通訳者試験」の開始等からも分かりますし、平成12年には社会福祉法の中に「手話通訳事業」が追加され、社会福祉法人大分県聴覚障害者協会の定款にも「手話通訳事業」を入れました。
今後は社会福祉法人の事業としても手話通訳事業に取り組んでいく方針であり、責任と専門性のある活動を目指しています。その点を関係者の皆様にご理解いただきたいと存じます。
上記の方針ですので手話通訳を「善意のボランティア」としてとらえる視点はなくしていきたいと考えていますし、聴覚障害者の諸権利に関わる重要な役割を担う専門性が要求されていることの認識を十分に持っていただきたいと考えています。