要約筆記派遣事業について

経過

昭和63年に一部有志の尽力により要約筆記奉仕員養成講座が開催され、その修了者を中心にして大分県要約筆記サークル「陽ざしの会」が結成されました。
その翌年の平成元年に大分県から県聴覚障害者協会に「要約筆記奉仕員養成派遣事業」が委託され、大会などの団体主催からの要約筆記依頼は徐々に増えてきましたが、個人からの依頼には十分に対応できていませんでした。
平成11年度からは大分市の要約筆記奉仕員派遣事業が開始、大分市内の聴覚障害者個人からの依頼にも対応可能となりました。また、大分市以外の地域では、県派遣において対応可能となりました。
要約筆記奉仕員派遣事業の派遣コーディネートは、事業開始から「陽ざしの会」に全面的に協力いただいて実施してきましたが、平成13年度からは県聴覚障害者協会が派遣業務のコーディネートを担うようになりました。

1.県聴覚障害者協会が派遣業務を担った経過

要約筆記奉仕員派遣事業は個人の情報保障と同時に、派遣を通じて把握した聴覚障害者を取り巻く諸問題を行政や関係機関に訴え、支援のための事業に取り組んでいくことが重要です。
そのために、組織的に取り組んでいける団体が必要となり、下記の理由から県聴覚障害者協会が派遣業務を担ってきたわけです。

①要約筆記奉仕員派遣事業は聴覚障害者の医療、家庭内の問題、職業、財産等個人のプライバシーに関わりのある業務が含まれるため、その派遣調整や活動報告書等の管理は公的な機関や法人が行うことがふさわしいと考えたからです。

② 要約筆記活動を通じて聴覚障害者の実態を把握して行政等に具体的な政策提言や関係機関への様々なアプローチをしていかねばなりません。県聴覚障害者協会は教育、福祉、労働等さまざまな立場からの問題分析が可能であり、行政への施策提言を行うことも出来ます。また、法人の自主事業へとつなげ、聴覚障害者福祉の向上につながる組織的な対応が可能と考えたからです。

③ 県聴覚障害者協会には、聴覚障害者問題に精通した機関(大分県聴覚障害者センター)に所属する専門の派遣コーディネーターを設置しています。
また、県聴覚障害者協会は、県や市からの手話通訳者派遣事業の受託実績があり、そのノウハウを活かせるという考えのもとで、現在に至っています。

2.現状

要約筆記派遣事業は竹田市以外の全市で実施しています。
ただし、要約筆記者の人数が不足しているために県下の市町村から広域的に要約筆記者を派遣しています。

3.今後

要約筆記奉仕員派遣事業は聴覚障害者の社会参加に一定の役割を果たしてきており、依頼も増えてきています。
しかし、大分県の場合は大部分が大会派遣にとどまり聴覚障害者個人からの依頼がまだまだ少ない状況にあり、今後聴覚障害者の生活の中に要約筆記を根付かせていく取り組みが求められてきます。
また、派遣事業を通じて聴覚障害者の個別の問題を把握して改善していく取り組みが十分に実施されているとは言いがたい状況にあります。今後、聴覚障害者への要約筆記派遣制度の啓発を行なうとともに関係機関に派遣制度を周知させていきたいと考えています。
平成23年3月に厚労省から「要約筆記者の養成カリキュラム等について」各都道府県に通知があり、要約筆記者の養成が行われるようになりました。
それを受けて要約筆記者養成と要約筆記者認定試験が開始されました。
裁判員制度の発足により高い専門性をもった要約筆記者が求められてきたことにより、これまでの要約筆記奉仕員に加え専門性の高い要約筆記者の養成を新たに行うというものです。実施主体は、都道府県です。
今まで実施してきた奉仕員養成講座は、大分市や別府市など、市町村が実施主体でしたが、この筆記者養成は、大分県が実施することになります。
平成17年度には全国要約筆記問題研究会大分県支部も結成され、要約筆記を取り巻く環境も変化してきています。
このような状況の中で聴覚障害者への情報保障のあり方や派遣体制等について、県難聴者協会や要約筆記団体等とも協議する場を設けていき、今後の要約筆記者養成・派遣体制について検討していきたいと考えています。