平成27年度
家庭裁判所における聴覚障害者への配慮
手話通訳士
H27作成版
1)聴覚障害者への対応と配慮
①受付
〇来所した時点で判断……………車いす・視覚障害者・内部障害者等
※外見上分かりにくい障害……
○声をかけても聞こえない………筆談、ゆっくりめの口形で話す
○補聴器を使っている
○人工内耳を装着
○補聴器を付けている場合………少し大きめの声で会話
○手話通訳者を依頼するか本人の希望を確認
聴覚に障害のある国民が
裁判員裁判へ十分に参加できるために
平成21 年5月より裁判員裁判が開始されます。この裁判員として聴覚に障
害のある国民が選任されることは十分に予想されます。また、裁判員に選任さ
れ、その職責を全うすることは国民の義務であると同時に権利でもあると思い
ます。
しかし、聴覚に障害のある国民が裁判員の職責を果たすためには、審理場面、
評議場面で話されたことが正確に把握できなければなりませんし、審理場面で
の質問や評議場面での意見陳述ができなければなりません。
そのためには、関係者への聴覚障害に対する理解の徹底と、参加を保障する
条件の整備が不可欠のものとなります。
聴覚障害者の当事者団体である財団法人全日本ろうあ連盟、手話通訳者関係
団体である全国手話通訳問題研究会、日本手話通訳士協会は協議を行い、聴覚
に障害を持った国民の裁判員裁判への参加保障についてのガイドラインをまと
めました。
裁判員裁判にかかわる諸機関にガイドラインを周知し、このガイドラインに
基づく裁判員裁判が実施されるよう要請いたします。
平成21 年3月 財団法人全日本ろうあ連盟 〒162-0801 東京都新宿区山吹町130 SKビル8階 TEL:03-3268-8847 FAX:03-3267-3445 |
1. 聴覚障害の多様性
聴覚障害ほど現れる障害の形態が異なるものはありません。聴力障害の程度
により、補聴器の装用により音声言語が聞き取れる人から、通常の音がまった
く聞こえない人まで幅広く存在します。また、失聴した年齢により、本人の発
語が他人に聞き取れる明瞭さを持った人から、コミュニケーションとして実用
性を有していない人まで多様です。
さらに文章理解力についても、教育の有無、程度により大きく異なる場合があります。
このように聴力障害の程度、失聴時期、受けた教育の有無、内容により現れ
る障害に多様性があるのが聴覚障害の特徴です。
2.聴覚障害者の情報保障の多様性について
前述の聴覚障害の多様性から、聴覚障害者のコミュニケーション手段につい
ては、手話、口話(発音発語・読話)、残存聴力活用(補聴器利用)、要約筆
記などがあります。コミュニケーション手段は、聴覚障害者個々により異なり
ます。聴覚障害者本人が希望するコミュニケーション手段による情報保障が大
切です。
聴覚障害者が裁判員の候補者として呼び出しを受け、面接の時から情報保障
は必要となります。事前質問票には「手話通訳」・「パソコンによる文字通訳」
など、情報保障手段の希望を記入する欄を設け、聴覚障害者本人が選択できる
ようにすることが必要です。
3.手話通訳者の派遣依頼方法について
現在、手話通訳者の派遣は、聴覚障害者情報提供施設や都道府県の聴覚障害者協会、聴覚障害者が関わる派遣センターなどが担っています。これらの機関では、手話通訳者の養成や登録試験も行っており、手話通訳者の派遣に関して十分な知識とノウハウを持っています。聴覚に障害のある裁判員に対してもこれら、現存のルートに乗って手話通訳者を派遣することが妥当であり、スムーズな派遣ができるものと考えます。
手話通訳者の派遣依頼については、手話通訳士が個別に、各裁判所に登録する方法ではなく、多くの手話通訳士が正規職員または登録通訳者として確保されている実態を鑑み、聴覚障害者情報提供施設等、都道府県における手話通訳等の派遣事業を行っている機関に依頼してください。なお、現存の手話通訳派 遣機関については最終ページの各聴覚障害者団体へお問い合わせください。
4.手話通訳を担当する者について
手話通訳士は平成元年に制定された厚生労働大臣公認の資格です。裁判員制度では正確な情報保障を確保するため、(手話通訳技能の程度により情報が歪んで伝わったり不正確であったりすることがないよう)公的評価を得た有資格者の配置が必要です。
裁判員裁判の手話通訳を担当する者は手話通訳士を基本としてください。
5. 同一裁判、同一手話通訳者を原則に
裁判員裁判では評議等の内容を他人に話すことは禁止されております。通常、手話通訳者が他の手話通訳者に引き継ぐ場合、対象の聴覚障害者の手話の特徴、理解力、話しの経過等の引継ぎをすることが普通です。しかし、裁判員裁判ではこのような引継ぎが可能かどうか、明確な指針が出されておりません。また、手話通訳者は対象者に応じて表現方法を変化させなければなりません。さらに手話通訳者を見る立場の聴覚障害者側にも、いわゆる「見慣れ」が生まれることにより、コミュニケーション濃度が濃くなる作用があります。
このような手話通訳の特性から考え、同じ手話通訳者が最初から最後まで手話通訳を担当することが、裁判員裁判の実質を確保するために必要な留意点です。
6. 手話通訳者確保のために
現在、手話通訳者や手話通訳士の中に手話通訳を専門の職業としている人は少ない状況です。これは、日本の手話通訳者が奉仕員的活動からスタートしていることもあり、その身分保障が十分ではないからです。そのため、別の職を持ちながら、土日や夜間の時間に手話通訳をしている方が多くいます。
裁判員として会社を休むことへの理解が得られることと同様に、裁判員裁判において、手話通訳士が手話通訳を行うことの意義について、社会的合意と理解が得られるよう企業等への働きかけが必要です。
また、手話通訳士の中には、公務員も多くいます。手話通訳士の確保のためには、行政で働く手話通訳士も「職務専従義務免除」等の方策により、裁判員制度に関する手話通訳を担うことができるよう、関係行政機関に対して国からの通知を出すなどの方策が有用です。
7.手話通訳の料金について
手話通訳士は厚生労働大臣が認定した全国統一の資格です。地域によって手話通訳謝金が異なることがないようにするべきであると考えます。金額については、1時間当たり2万円以上が妥当と考えます。
8.手話通訳者の人数について
手話通訳は、高度な技術と技術を発揮するための集中が求められる業務です。
また、手話通訳者の健康管理の側面からも厚生労働省は『障害者生活訓練・コミュニケーション支援等事業の実施について』の通知の中に、『一人の手話通訳者が連続して通訳する時間は、原則として一時間以内にすること。なお、講演会等の場合は30分以内とすること』と明示されております。通常の手話通訳の場合でも長時間の業務が予想される場合は、複数の手話通訳者が派遣されます。
手話通訳を行う場合、1名が手話通訳を行い、他の1名はその手話通訳者のフォローを行っています。
その意味では休憩がないのに等しい状況に置かれ続けています。
このような理由から、1人の裁判員に対し、1名が通訳を担当し残り2名が待機して交代しながら対応できるよう、3名の手話通訳者の派遣が最適と考えます。
9.手話通訳者の研修について
裁判員裁判の手話通訳を行う際に、司法についての基本的な知識や、裁判員制度についての知識、専門用語の理解は最低限必要です。また、専門用語を表す手話についても事前に知り、選任された裁判員の手話に対応できるようにしておく準備が必要です。
裁判員制度に従事する手話通訳者が職務の適切な執行のために、裁判所の責任において、派遣事業体と協力して研修を実施することが求められます。
10. 手話話通訳者がいる場合に関係者に知ってほしいこと
・特に評議の際に、複数の人が同時に発言をすると同時に通訳できません。
そのため聴覚障害者は発言の機会を失ってしまうことにつながります。挙手等で発言者を明確にし、一人ずつ発言がおこなわれるよう、裁判長が進行をしていただきたい。また評議開始にあたっては、裁判官から他の裁判員の理解を求めるような配慮が必要です。
・聴覚障害者は手話通訳を見ながら他のものを見ることができないので、例えばモニターを見ながらの説明があると、モニターと手話通訳を同時に見て内容を把握することは困難です。手話通訳と他のものを同時に見る進行は避けることが必要です。
・手話通訳者が発言の趣旨を把握できない場合には、正確な情報保障をするために、手話通訳者が発言者に対して聞き返すことがあることを理解してください。
・聴覚障害者が集中して手話通訳を見続けることは極度の疲労を招きます。適宜休憩時間の確保が必要です。
裁判員裁判に係わるすべての関係者にこれらのことを理解していただき、聴覚に障害のある裁判員が、障害のない裁判員と対等・平等に裁判に係われることを望みます。
尚、裁判員裁判がスタートした後も、聴覚障害者が裁判員として責務を十二分に果たせるよう、各裁判所での事例を集約し、点検し、改善のために、最高裁判所の責任において「裁判員裁判法廷マニュアル」の作成が求められます。
関係諸団体と協議し、上記マニュアルを作成し、聴覚障害のある裁判員が安心して裁判に係わることができるよう環境整備を強く訴えます。
① 刑事事件での被害者又は加害者
家庭裁判所の調停
② 聴覚障害者が裁判員裁判員の候補になった場合の聴覚障害者への情報保障体制
③ 聴覚障害者が被告や、証人、加害者等で刑事訴訟法上も公判運営上のために手話通訳者が必要とされた。
2)裁判所と聴覚障害者
1.研修の保障を
① 裁判員制度に従事する手話通訳者が職務の適切な執行のために研修の場を保障することも重要です。
② 専門的な法廷用語の知識や手話表現の訓練、模擬法廷での実習などを通して いつでも公判に対応できるように備えておかねばなりません。
③ 最高裁判所の法廷通訳制度では「法廷通訳セミナー」や「法廷通訳フォローアップセミナー」などを全国規模で実施していますが、手話通訳者についても全国手話研修センターで実施できるよう研修制度の確立を求めていきます。
④ 聴覚障害者裁判員候補者もともに研修ができれば研修の効果は倍増するでしょう。
⑤ 現在、日本手話研究所において「法廷用語の日常化に関する最終報告書」(日本弁護士会)をもとにした分かりやすい法廷手話語彙の研究を行っています。重厚難解だった司法の言葉が、この作業を通して聴覚障害者にも分かる身近な言葉になることを期待しています。